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コウモリの生物学およびバットウォッチングの本です


Do Bats Drink Blood? Barbara A. Schmidt-french (著), Carol A. Butler (著)

英語で長大な本を読み通すには根性がいるけれど、この本はコウモリの生態や習性を質問形式で解説、それぞれ独立した質問なのでどこからでも気軽に読める。内容も一般の人向け。
コウモリってどのくらい速く飛べるの?
メキシコオヒキコウモリは平均時速40kmで飛ぶけれど、追い風だと時速96kmにもなることがあります。
飛翔するときのコウモリの翼の動きや翼の形によって飛ぶスピードやスタイルも違うことも解説されている。
コウモリって泳げるの?
多くのコウモリは必要に迫られたら、短距離なら泳げます。一部の魚を食べる種、たとえばウオクイコウモリなどは、優秀なスイマーです。コウモリは時々水を飲もうとして水面に落ちることがあるけれど、溺れてしまうのは泳げないからではなくて、縁に手がかりがなくて這い上がれないからです。そういえば、アメリカ南西部の乾燥地帯では、牧場の牛の水飲みがコウモリを含む野生生物にとって貴重な水源になっていて、溺れないようにスロープをつけようというキャンペーンをBCIがやっていたっけ。

タイトルになっているコウモリって血を飲むの?の答えは血を飲むコウモリは、ナミチスイコウモリ、シロチスイコウモリ、ケアシチスイコウモリの3種類だけで、メキシコ、中南米、カリブ海の島々に生息しています。シロチスイコウモリ、ケアシチスイコウモリは主に鳥の血を食べます。ナミチスイコウモリは牛や豚や山羊など、主に哺乳類の血を飲みます。このあとチスイコウモリは獲物をどうやって見つけるか、近づくかなどの解説があります。


Altringham, J.D. 1996. Bats: Biology and Behaviour. Oxford University Press, Oxford, 262pp.

その日本語版オルトリンガム, J.D. 1998. コウモリ ―進化・生態・行動―. 八坂書房, 東京, 402pp.

改訂版Altringham, J.D. 2011. Bats: From Evolution to Conservation. Oxford University Press, London, 324pp

この本を訳した1996-1997年頃には、コウモリはクビワオオコウモリとオガサワラオオコウモリとマリアナオオコウモリとアブラコウモリくらいしか見たことがなくて、特にオオコウモリ科以外のコウモリはあまり関心がなかったので、翼の形も飛び方も鳥のように多様で、交尾形式もレックで求愛したりハーレムをつくるものがいたりとか、採餌行動も変化に富んでいて、渡りをするものがいるなどとは思ってもいなかった。

印象に残っている一つはリュウゼツランの花に来るソーシュルハナナガコウモリの採餌の仕方を調べるために人工のガラスの花の円錐花序に蜜を詰めて、コウモリを複数放して1回舌を突っ込むたびに食べた蜜の量を測定するという部分、どういう状況をさしているのかわからなかったので、元論文を国会図書館まで探しに行って、その中のイラストを見て、「ああこういうことをやったのか!」と納得した。Howell, D.J. and Hartl,DL.(1980)Optimal foraging in Glossophagine bats:when to give up. Am. Nat. 115, 696-704から

あと「空飛ぶ霊長類説」を知ったのもこの本だった。中脳と両眼の網膜細胞を結ぶ神経連絡のパターンがオオコウモリは霊長類と共通で、小コウモリでは異なること、その他さまざまな相違点がオオコウモリと小コウモリにはあることなどから、オオコウモリ類は、小コウモリ類の進化とは独立して霊長類の系統から分岐し、進化した。つまり、オオコウモリと小コウモリが似ているのは収斂だというもの。オオコウモリを初めて南大東島で見たときの、好奇心旺盛な様子といい、枝をするすると移動する様子の印象が、「サルだ!」だったので、すごく気に入った。

改訂版までの15年の間にコウモリ研究の世界は大きく変わって、今では空飛ぶ霊長類説は「間違いであることがわかった」などという身も蓋もない表現をしているのを目にする。旧版では3ページしかなかった終章の保護についてのページが新版では46ページになっているのは、残念ながらこの15年の間、そしてその後もコウモリの生存を脅かす要因がますます増えているからかと思われる。白鼻症候群が大量にアメリカのコウモリを殺しているのが見つかったのは2006年、風力発電施設で大量のコウモリの被害がでていることが見つかったのは2003年。コウモリが起源の可能性があるかもしれないと言われる感染症は、ニパウィルス(1999年)、SARS(2002年)、MERS(2012年)、そしてCOVID-19と、コウモリへの風当たりは強い(ヘンドラは1994年、エボラ出血熱やマールブルグは見つかったのはけっこう古い)。


The Secret Lives of Bats Merlin Tuttle (著)

コウモリ研究者、コウモリ写真家、Bat Conservation International(BCI)の創設者であるマーリン・タトルさんの回想録。

10代の頃、近所の洞くつでのハイイロホオヒゲコウモリとの出会いから、大学でのコウモリ研究、パナマでカエルクイコウモリがトゥンガラガエルの声を学習する野外実験、そしてナショナルジオグラフィックの「北アメリカの野生生物」のコウモリ部分の章を担当したときに、ライブラリにあるのが歯をむき出しにしたようなおぞましいコウモリ写真ばかりだったのでカメラマンを自分のフィールドに案内して撮ってもらったときに「写真がうまく撮れるかどうかは撮影について知っているだけじゃなくて、コウモリのことを知っているかどうかも重要なんだわかった。これで私の撮影の秘訣がわかったんだから、もうちょっと機材を購入して自分でもっと写真が撮れないかやってみてもいいんじゃないか。」と言われたことがきっかけで写真の世界へ進んだこと、ソノラ砂漠で3種の柱サボテン、サワロサボテン、カルドンサボテン、オルガンパイプサボテンに対するコウモリの花粉媒介者としての重要性の違い、過去5回のナショナルジオグラフィック記事の取材を中心とした調査撮影旅行、タイのカオチョンプラン洞窟のヒダクチオヒキコウモリコウモリの保護に奔走する話などなどがでてきます。

調査や撮影中に、洞窟で密造酒つくりに散弾銃をつきつけられたり、一人で洞くつの奥に入って調査していたらカーバイドのヘッドランプが燃料不足で消えてしまったり、船外機付きのボートで水面を飛ぶ反射テープをつけたコウモリを追っていて間一髪で鋼索に気がついて首をはねられずにすんだこと、何百何千万頭のメキシコオヒキコウモリが生息する洞窟の調査で二酸化炭素の濃度が高くて気が遠くなりかけたり、アンモニアに肺が損傷を受けて瀕死の状態で入院したり、アフリカで入国の際に税関で撮影機材を差し押さえられたり、アフリカで撮影中に強盗に遭って投光器で相手の不意をついて逃げたり、ピューマやコブラや密猟者に遭遇したりといった冒険・・・というかよく生きてこられたというような経験も書かれています。ただ、もう少し予測可能は避けた方が・・・

霞網を張ったらアオサギがかかってしまったり、行動を調べるためにコウモリの背中に化学発光ライトをつけて放したら、近くにいた猟師たちが「あれは何だ」「ホタルにしては大きすぎる」「コウモリだ」「バカな、コウモリは光らない」と騒いでいたことなど、コウモリな人なら似たような経験がありそうな話もでてきます。


スペインの出版社Lynx EdidionsのHandbook of the Mammals of the Worldシリーズ最終第9巻Bats

24×31cmの大判で重さ4.3kgは、スカートの寝押しでもできそうな重量級。あ、寝押しって今時誰もやらない?

序文で、コウモリをシリーズの最後にもってきたのは、近年、分類や新種記載の進捗が著しく、現在でも論議されている最中だからといっている。

本文はまず、その科の特徴や分布、分類の変遷などが、飛翔中や採餌中、クローズアップの写真とともに記載されており、更に一種一種の形態や生息環境、食性などの説明と分布図がある。コウモリの図鑑は欧米には信頼できるものがけっこうあるが、その他の地域では限られている。昨今はインターネットでいろいろな情報があるとはいえ、本書には見たこともないコウモリの写真や絵があって、楽しい。
 ただ、同じ属あるいは近縁のいくつかの属のコウモリが同じポーズで並んでいるカラー図版のイラストにかなりのページを割いているが、鳥や哺乳類の他の分野や植物図鑑と違って、コウモリをこの図で識別することはないと思うので、もっと生態がわかる絵や写真にページを割いてもよかったかとも思う。

文献一覧は巻末のCDあるいはLynxからダウンロードできる。日本の論文もけっこう入っていて、私も自分の名前をいくつか見つけ、ヤマコウモリの日中飛翔については、本文に私の書いたことがそのまま引用されているのを読んで喜んだ。

674ページのユビナガコウモリMiniopterus fuliginosus、690ページのリュウキュウユビナガコウモリMiniopterus fuscus、740ページのアジアコイエローハウスコウモリScotophilus kuhlii(台湾)は大沢夕志の撮った写真である。先日このアジアコイエローハウスコウモリの撮影場所を案内してくれた、台湾のコウモリ研究者と会う機会があったのだが、このコウモリは、アジアに広く分布する普通種なのだが、台湾では春から秋に出産哺育にやってきて、冬にどこにいるかはわかっていないという。まだまだコウモリの生活には、未知の領分がたくさんある。調査機材の進歩も著しいので、10年後くらいに改訂版があったら、内容もずいぶん違ってくるかもしれない。


Flying foxes -fruit and blossom bats of Australia
コウモリの本や図鑑はいろいろあるけれど、オオコウモリ専門の本は嬉しい。最近は研究者も増えたけど、オオコウモリ生息地は、あまりコウモリ研究が進んでない国が多く、オーストラリアは、オオコウモリファンにとって参考になる文献も多い。
オオコウモリの進化、化石、アボリジニ文化の中のオオコウモリ、分類、識別と分布、形態、繁殖と生活史、捕食者、寄生虫、行動、食性、渡り、保護、最後にリハビリの章があるのがオオコウモリ保護施設がいくつもあるオーストラリアらしい。


同じ著者が書いたBATS Working the Night Shiftは小コウモリも含めたオーストラリアのコウモリの形態、生活史、生態をSteve Parishほかの写真で紹介した素晴らしい本。こういう本を集大成としてつくりたいなあ・・・この中でオーストラリアのバオバブにオオコウモリが来ていたという伝聞を確か書いていたので一度聞いてみようと思っていたのだけど、残念ながら著者は二人とも近年亡くなった。


Bat Ecology (2006) Thomas H. Kunz (編集), M. Brock Fenton (編集)
コウモリのねぐらは洞くつだけじゃなくて、半分以上のコウモリ種は植物(樹洞や枝からぶら下がるとか葉をテント状に加工するとか)を使っている。

エコーロケーションだけでなく視力も重要で、耳や目のアップ写真をその生態と比べると例えばどの程度両眼視するかとかとも、錐体桿体のどちらが中心かも、種とその生態に結びついているのがわかる。

Bats and Ballsという章は、野球の話ではなくて、性淘汰の話。

果実食コウモリの葉食いは昔は特殊な例として見られていたけれど、最近ヘラコウモリも含めてけっこう一般的に見られることが報告されていると思う。

同じ空飛ぶ仲間として、鳥は12kgくらいのもいるのに、コウモリは最大でも1.5kgかそこらなのは、大型の鳥は滑空や滑翔をうまく利用するけど、コウモリはそういった飛び方をしないと。だってコウモリは通常夜行性だから上昇気流とかは通常利用できない。けどサモアオオコウモリは真っ昼間ではないけど昼間尾根で滑翔するのを見たことがある。

コウモリが花粉媒介する花の中にはコウモリの超音波を反射する花弁を持っていて一度見てみたいと思っているのだけど、新世界の花蜜食コウモリが含まれるヘラコウモリ科は小さい声でエコーロケーションするので、コウモリによく見えると確かに効果あるかも。

Kunzにはもっとコウモリ研究の世界で活躍しててもらいたかった。


A Bat Man in the Tropics

植物とコウモリの関係をパナマ、コスタリカ、オーストラリア、北米ソノラ砂漠で調べたテオドール・フレミングの研究と冒険。マーリン・タトルさんと時代も調査地域もかぶるところがあって、この本の中にもタトルさんの話がちょっと出てくる。実はまだパナマの章で止まったまま積ん読中。同じ著者の本はあと2冊、Island BatsとThe Short-tailed Fruit Batをもっているけれど、どちらも積ん読。著書、共著書はNo Species Is an IslandとかColumnar Cacti and Their MutualistsとかThe Ornaments of Life: Coevolution and Conservation in the TropicsとかFrugivores and seed Dispersalとか、Phyllostomid Bats-A Unique Mammalian Radiationとか私と興味が近いけど、買うと積ん読が増える・・・


Identification of Arthropod Fragments in Bat Droppings (Occasional Publication of the Mammal Society)
Caroline Shiel, Catherine McAney, Claire Sullivan and James Fairley
AN OCCASIONAL PUBLICATION OF THE MAMMAL SOCIETY

コウモリの糞中の残骸から、餌昆虫を調べる図鑑です。

BATS IN THE GARDEN
SHIRLEY THOMPSON
School Garden Company

庭にコウモリを呼ぶ為のあれこれです。

コウモリの不思議
内田照章著            球磨村森林組合
コウモリの種類、特徴について書かれた数少ない日本の本

コウモリの生活戦略序論 松村澄子著         東海大学出版

蝙蝠日記
直良信夫著       甲鳥書林

アブラコウモリの観察日記と、コウモリという生き物について書いてあります。序に「此の獣の一切を再検討し、頑敵英米を撃ちこらすための、最新最精鋭兵器の製作に、専念しなければならない・・・」と書いてあるのは、皇紀2603年9月30日なら無理もないでしょう。

BATS of Papua New Guinea コウモリだけで図鑑一冊ができてしまうなんて、パプアニューギニアは魅力的です。

こうもりのヒソヒソ話ー超音波今昔ー 高木堅志郎 裳華房

Bats in roofs
Bat Interest Group of Kwazulu-Natal

南アフリカのコウモリグループが作った家屋にねぐらをとるコウモリの本。屋根裏にねぐらをとるのがどんな種か。室内に入ってこないための注意事項や匂いや騒音問題を緩和する方法。殺さずに怪我させずに追い出す方法。近くで採餌したフルーツバットが、家の外壁を汚さない方法があるのが、アフリカらしい。


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